
2024年3月、国土交通省は「新たなトラックの標準的運賃を告示した」と発表した。その内容は「令和2年4月に告示したトラックの標準的運賃について、運賃水準を8%引き上げるとともに、荷役の対価等を加算した新たな運賃を」示したものだ。
その背景には、「トラック運送業については、間近に迫る『2024年問題』も踏まえ、ドライバーの賃上げの原資となる適正運賃を収受できる環境の整備が急務」といったことがある。要するに、現状のトラック輸送運賃は適正ではなく、トラックドライバーの給与も相対的に少ない状態にあると、国が公式に認めたに等しい。

バブル景気の頃のトラック業界は、まさに我が世の春を謳歌していた。当時、何か事業を始めたいという人は、数年トラックドライバーをやればその資金が貯まるといわれていたぐらい、多額の給料が支払われていた。
バブル景気の頃だから、ホワイトカラーの給料も決して低くはなかったのに、それを上回っていたということである。それだけ、トラック輸送事業は儲かっていたのだ。
この状況が崩れた理由は、1990年の貨物自動車運送事業法改正(規制緩和)に端を発するとされる。それまで、運送事業は免許制であり、国から事業免許を受けなければ参入ができなかった。これは、悪質な事業者が紛れ込まないないようにチェックするための仕組みである。
しかし、このシステムでは既存事業者の利益を守るために、恣意的な運用することも不可能ではない。すなわち、新たに運送業を始めようとする事業者にとっては、大きな障壁になっていたといえる。
改正によって認可制に移行したことで、雨後の筍のように中小事業者の参入が相次いだ。さらに、2003年の改正で営業区域が廃止され、1事業者あたりの最低保有車輌台数が一律5台に緩和されたことで、運送事業者の増加に拍車がかかった。
結果、過当競争になって運賃の値崩れが発生し、事業者の収益が悪化していったのである。また、付帯作業の増加などといったことも横行するようになり、トラックドライバーは給料の低下に加えて、労働環境まで悪化していったのだ。

この状況を改善するべく、国土交通省や厚生労働省が次々と施策を打ち出していった。そのひとつが、冒頭の告示なのだ。もちろん、この告示は重要な意味を持つものの、あくまで各事業者に協力を要請しているに過ぎない。応じないからといって、営業停止などの厳しい行政処分が下されるわけではないのである。
告示の詳細は、荷主に対して
・標準運賃の8%アップ
・トラックドライバーによる荷物の積み込み料や取り卸し料の加算
・高速道路を利用しない場合の割り増し料
・下請け手数料の設定
などが盛り込まれており、運送事業者にとって有利な内容になっている。これが実行されれば、トラックドライバーの大幅な待遇改善につながることは間違いない。 しかし、その道のりは平坦とはいえない。
国内消費の低迷・円安・物価高などがあって、荷主も大幅なコストダウンを迫られているのである。資本主義経済の原則は需給バランスにあるのだが、物流業界ではそれが大きく崩れた状態なのだ。
ここは、やはり国が音頭をとって強制的にそのバランスを立て直す必要があるだろう。そのためには、「お願い」レベルの告示に留まらず、罰則を含んだ法制化も検討する必要があるのかもしれない。
