いすゞの小型トラック向け9速AMTが「市村賞」を受賞

いすゞの小型トラック向けデュアルクラッチ式9速AMT「ISIM(アイシム)」が、市村清新技術財団が取材する「第57回市村産業賞」にて「貢献賞」を受賞した。このAMTは同社のエルフに搭載されているトランスミッションでその名称は「Isuzu Smooth Intelligent Transmission」の頭文字をとった造語。「シームレスでスムース」「俊敏・知的」といったこのミッションの特徴を表現している。

「市村産業賞」はリコー三愛グループの創始者、市村清が創設した優れた国産技術を開発することで産業分野の発展に貢献・功績のあった技術開発者に対して贈呈される技術賞のひとつ。創設者の市村清は1900年に佐賀県の農家に生まれ、いち保険セールスマンから理化学研究所(理研。現在の同名の国立研究開発法人の前進)の九州総代理店を経て、当時の理研コンツェルンの総帥・大河内正敏にその才覚を見出されてトップ集団の一人として抜擢され、リコーの前身・理研工学工業の専務となり1942年に独立。終戦を迎えた’45年に三愛商事(現在の三愛)を創業。銀座4丁目角の土地を取得して食料品店を開業。後に婦人服店に転業。現在も同地に建つ円柱型・総ガラス張りの三愛ドリームセンターは市村の「お客を動かさず、建物を回して商品のほうを動かしてはどうか」とのアイデアに基づいて作られた。また会社名の「三愛」は、「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」の市村の「三愛主義」のモットーから生まれている。

理研の感光紙から「リコピー」のコピー機、大衆カメラの火付け役となった「リコーフレックス」など名機を多数生み出したリコーに小売店の三愛/西銀座デパート、羽田空港の給油を担う「三愛石油」、リース会社の先駆け的存在の「日本リース」など、多種多彩な企業グループを創立し、「起業の神様」を賞された市村清は、「将来にわたって日本が繁栄するためには、素晴らしい創意工夫を育成し、研究開発を行ない、それを実社会に役立たせるとともに、諸外国に先んじて技術革新による新分野を醸成開拓することが最も重要である」と考え、その晩年の1968年に科学技術の研究開発に対する助成や優れた技術の検証・国際交流の促進などを行なう財団「新技術開発財団」(現・市村清新技術財団)を発足。没後に氏の個人所有の全有価証券(当時の時価約30億円)が寄贈され、1969年に「市村産業賞」「市村学術賞」「市村地球環境産業省」「市村地球環境学術賞」と4種の賞からなる「市村賞」の贈呈がスタートした。

今回、いすゞのISIMが市村産業賞の貢献賞に選ばれたのは「省燃費と運転負荷軽減に資する小型商用車トランスミッション」という受賞テーマで、同社の金子直弘氏と岡本壮史氏、明石浩平氏の3名の技術者が受賞した。開発の背景は世界的に脱炭素社会の実現に向けた動きが加速するなか、CO2排出の多くを占める商用車は、EVの開発・提供を進めるも航続距離、車両重量、車輌価格などの課題から普及にはさらに多くの時間を要する。そのため、現在主流の動力方式である内燃機関において、従来以上に省燃費でエネルギーロスの少ないパワートレインを搭載した製品の開発、市場提供が求められている。また、物流業界では深刻なドライバー不足二直面し、さらに2024年問題、時間外労働の上限規制によりリソースが減少し、輸送能力の低下が課題となっている。

こういった問題を解決するため、いすゞでは商用車の環境性能とイージードライブ性能を高レベルで両立する小型トラック向けデュアルクラッチ式9速AMT「ISIM」を開発。独自のギヤトレイン構造を採用することで、一般的な6速トランスミッションと同じ歯車列数で9速を実現。多段化しつつ従来のミッションに比べて全長を17mm短縮し、8kgの軽量化を達成した。また9速の多段化とワイドレンジ・クロスレシオ化によりエンジン回転をおさえた省燃費走行を実現し、騒音軽減にも寄与。また、デュアルクラッチとクロスレシオの組み合わせにより、トルク抜けなく適切な駆動力を得られ、従来の小型トラックにはない運転の歯やすさも実現している。

このミッションは2023年にフルモデルチェンジしたエルフに搭載。CO2排出量を削減するとともに、イージードライブ性能向上によりドライバーの披露を軽減。労働環境をも改善することによりドライバー不足の解消にも貢献している。

市村産業賞の貢献賞は別名がアイデア賞。これまで520件の技術やシステムが表彰され、今回はこのISIMのほか、マツダの車体構造接着技術が受賞している。いすゞのISIMはすべての車輌のEV化にはまだほど遠い自動車産業界の現状において、内燃機関による環境の改善とドライバーの負担を軽減した先進的なミッション、市村賞の精神に見事にマッチした技術として賞されたというわけだ。

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