
乗用車を購入する場合、ユーザーはディーラーから完成車を受け取る。メーカーオプションやディーラーオプションのパーツや仕様があるから、多少のカスタマイズはできるものの、同じ車名・同じグレードであれば車輌ごとに大きな違いはない。
ところが、トラックでは少し事情が違ってくる。エンジンを始めとする駆動部分やシャシーについては乗用車と同様なのだが、荷物を載せる架装部分については実に多くの種類が存在するのだ。
メーカーによって違いはあるものの、トラックの新車は一般的な平ボディ・箱バン・ダンプトラックといったタイプであれば、メーカーラインナップとして用意されていることが多い。しかし、パッカー車・ミキサー車・バキュームカー・キャリアカーなどといった特殊な架装は、トラックメーカーが製造しているわけではないのだ。

トラックはシャシーに駆動関連装置を設置しており、そこにキャビンと荷室を搭載するといった構造になっている。トラックメーカーが請け負うのは、走行できる状態にするところまでがひとつの区切りとなるので、駆動関連装置・シャシー・キャビンがベースとなっている。乱暴な言い方をすれば、メーカーラインナップの平ボディ・箱バン・ダンプなどの架装は、おまけのようなものなのかもしれない。
言うまでもないが、トラックは荷物を載せて運ぶ車輌だ。普通の荷物を普通に運ぶのであれば、平ボディや箱バンタイプといった決められた規格の荷室でも十分に間に合う。しかし、荷物には特殊なものが多くあって必ずしも一辺倒ではない。たとえば、液体や粘性のある泥状のもののほか、大きなもの・温度管理が必要なもの・危険なものなど実にさまざまである。
こういった荷物は通常の平ボディや箱バンでは対応ができないことが多いために、特殊な荷室が必要になってくる。これを、トラックメーカーがいちいちユーザーの注文を受けて設計・製造していては、大規模な設計システムや製造ラインが必要となり、生産効率が大幅に低下することになってしまう。そこで、トラックメーカーから半完成車を仕入れ、荷室を架装する架装メーカーが活躍することになるのである。

架装メーカーは多数存在するが、それぞれある程度の専門分野を持っている。ゆえに、ユーザーである運送事業者は、必要な架装に合わせて発注先を選択することになるのだ。架装メーカーは得意とする分野のノウハウを蓄積しており、広いユーザーニーズに合わせた汎用タイプを用意している。もちろん、特殊なニーズに対してはオーダーメイドにも対応する。
こういった仕組みは、高度成長期にトラックが爆発的に普及し、それに合わせて用途が多様化したことに端を発している。当初は町工場や整備工場がハンドメイドレベルで対応していたようだが、それらがノウハウを持つことで得意分野が確立したといわれている。
近年注力されているのは安全技術と自動化・省力化で、各種センサーや危険察知システムの進化が著しい。運輸事業者の間では「2024年問題」解決の一助としても、トラック架装の利便性向上に対する期待が高まっているようである。
