
トラックドライバーなら、誰もが知る「430休憩」。これは、トラックドライバーの過重労働を軽減する必要性から、1989年に走行・休憩の基準を行政が示したものである。「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」として、厚生労働省が対象事業者に通知した。トラック輸送といえば国土交通省の管轄と思われがちだが、この規則は、トラックドライバーの労働環境改善が目的であるから厚生労働省の所管となる。
トラックドライバーの運転時間について、
・1年の拘束時間
・1ヶ月の拘束時間
・1日の拘束時間
・1日の休憩時間
・運転時間…2日・2週間
などというように細かく規定されているが、「430休憩」は連続運転時間に関するものである。端的にいえば「4時間運転したら30分休息する」ということだが、当初は「連続運転時間は4時間が限度。運転開始後4時間以内又は4時間経過直後に運転を中断して30分以上の休憩等を確保しなければならない
とされていた。ただ、この「休憩等」は「運転をしない」という解釈で、荷積み・荷降ろし・待機時間といったものが含まれていたのだ。
しかし、これでは休憩したとは言い難い状況が生まれ、トラックドライバーの疲労は回復しないという懸念がある。そこで、2024年4月から「運転開始後4時間以内又は4時間経過直後に、30分以上の運転の中断が必要。 中断時には原則として休憩を与えなければならないとなり、休憩は純粋に休息をとる時間になったのだ。

4時間走行後の休憩時間は「30分以上」とされているが、1回に10分以上の時間を確保できれば分割してとることができる。また、休憩場所が確保できない場合などは、連続運転時間を4時間30分まで延長できるようになった。このような改正が行われた背景は、この「430休憩」が現場においてあまり評判がよくないことにあるという。
まず、交通状況は渋滞・事故・工事などの要素で大きく変化する。必ずしも、運行計画通りにいくとは限らない。しかし、荷物の到着時間は決められている。トラックドライバーは、そのせめぎあいの中で神経をすり減らして業務を遂行しているのである。それを、杓子定規に「4時間走ったら30分休みなさい。それがあなたのため、ひいては世の中のためなのです」といわれても、「いやいや、走行中の休憩ぐらい自分のタイミングでとらせてよ」と思うのも無理はない。
そもそも、この告示には罰則規定がない。言い換えれば、違反をしても罰を受けることはないのだ。しかし、それは刑事処分のこと。事業者や運行管理者には、行政勧告や指導、場合によっては事業所名公表・車輌使用停止処分・事業停止処分など、行政処分が下される可能性はあるのだ。現在ではデジタコが普及して運行記録が詳細に残っているから、言い逃れやごまかしは聞かない。否応なく、「430休憩」が強制されることになる。
先にも触れたように、「430休憩」はトラックドライバーの労働環境改善を主な目的としているが、背景には悲惨なトラック事故を減らしたいという思惑がある。とはいえ、現場で受け入れが難しい制度を強要しても、それらが達成するとは考えられない。待機時間・待機場所の確保・荷受けや荷降ろしの自動化・運賃問題など、物流事業全体の中で最適解を模索することが必要なのではないだろうか。
