
トラックには様々な大きさや架装があるので一概には言えないが、総じて乗用車に比べると死角が多いといえるのではないだろうか。とくに箱バンの大型車の場合、前方と真横はまだしも後ろや左右後方は、ほとんど肉眼で見ることができない。そのために、大きなミラーや凸面ミラーなどが、フロント左右前方に突きだすように設置されているのだ。トラックドライバーは、これらを駆使して安全を確認しているのである。
こういったミラーはデザインとして見ると「かっこいい」と感じる人も少なくないが、「機能」として考えれば少なくない問題を孕んでいる。ひとつは、視認可能範囲だ。ミラーは設置場所や大きさに限界があるため、どれだけ工夫をしてもすべてを映し出すことはできない。要するに、死角は完全になくならないということだ。もうひとつは、車両感覚を把握しにくいことである。見えない場所を映し出すわけだから、ミラーはどうしても車両から飛び出した状態にして取り付ける必要がある。その分、実質上の車蝠・全長などが拡大されるのだ。
そこで注目されたのが、電子ミラーである。これは、ミラーの代わりにカメラを設置し、その映像を運転席のモニターに映し出すことで死角をなくそうというものだ。公道を走る車両の基準を示した「道路運送車両法・保安基準」において、電子ミラーが2016年にミラーとして認められることになり、事実上解禁された。ところが、2025年現在、街中で電子ミラーの車両を見かけることはほとんどない。

バックカメラなどを見ればわかるが、近年のカメラ映像技術は飛躍的に向上している。赤外線・ミリ波レーダー・各種補正機能などと組み合わせることで、暗所撮影・障害物検知・画像補正などができるから、ミラーや肉眼よりも高い精度で死角をカバーできるはずなのだ。ところが、解禁から10年近く経過しているにもかかわらず、一向に普及が進んでいないのはなぜなのだろうか。
その理由は、乗用車とトラックで少し事情が違うようだ。乗用車の場合、デザイン性・画像処理のタイムラグ(実際状況とモニター画像にわずかなタイムラグがあることの違和感)・コストといった点がネックになっているという。また、モニターをどこに配置するかという問題も、様々な意見があっていまだに結論が得られていないようだ。
トラックの場合は、主に耐久性の問題だ。いうまでもないが、トラックは事業用車として過酷な環境で酷使される車両である。ゆえに、故障や部品劣化が早い。主に事業用車両として使用されるため、運用効率やメンテナンス費用(維持経費など)が重要視される。くわえて、ドライバーは運転に長けたプロだ。そうなると、装置費用が高く、精密機械であるがゆえに耐久性に難を持つ電子ミラーを、好んで使用したいと思う運送事業者は少ないだろう。
トラックドライバーにしても、画像のタイムラグはバックミラーで経験済みだから問題はないにしても、プロである彼らは現状のミラーでもとくに不自由は感じないのだ。とはいえ、2024年問題でトラックドライバーが不足しており、その裾野を広げるためにはこういった便利機能も、新人獲得には有効な手段といえる。近い将来には、危険警告装置や自動ブレーキなどの安全システムと連動することによって、普及していくことになるのかもしれない。
