「精密機器輸送中」のトラックって何を運んでいるの?

トラックは様々な荷物を運搬しているが、なかには特殊なものを運ぶ場合がある。たとえば、危険物・毒劇物・高圧ガスなどもそのひとつだ。これらは、扱いを間違えば大事故につながりかねない危ない荷物。ゆえに、タンクローリーなどの専用車輌を使用し、決められた表示を行って厳格なルールに従い、安全を確保しながら運搬される。

危険なものではなくても、壊れやすいなどといった特性のある荷物も多く存在する。ガラスや陶磁器などはその代表だが、これらは荷主の責任で厳重に梱包し、「ワレモノ注意」などの表示がされる。トラックドライバーはそれらの荷物について、注意を払いながら慎重に運ぶ。とはいえ、基本は普通のトラックを使用して一般の荷物と同様の扱いになるから、特別料金が求められるようなケースはほとんどない。

しかし、まれに外見は箱バンなのに、後部扉には「精密機器輸送中」などといったステッカーを貼っているトラックを見かけることがある。「精密機器(機械)」といわれても、あまりピンと来ないかもしれない。一般的にはスマートホン・時計・カメラ・コンピュータなどを思い浮かべるのではないだろうか。確かに、これらは落とすと壊れて使えなくなることがあるから、取り扱いには細心の注意が必要だ。しかし、実際はそういった荷物だけが、「精密機器(機械)」として扱われているわけではない。

そもそも、一般用語としては「精密機器(機械)」の定義が明確ではない。ただ、輸送業界では「構造が複雑で高度な加工および組み立て技術を要し、高精度な動作や性能を持った機器のことを指す」と認識されている。それに該当する機器については、概ね9種類(出力機器・通信機器・理化学機器・工作機器・光学機器/映写機・医療機器・福祉機器・レーザー加工機・宇宙航空部品)程度に分類されており、これらは普通の荷物とは扱いが異なっているのだ。

各分類にはそこに属する様々な機器(機械)があり、その形状・仕様・大きさなどは千差万別である。そのため、精密機器(機械)輸送を請け負う事業者でも、すべてを運搬できるわけではない。それぞれの機器(機械)に応じた梱包・運送手順などのノウハウがあるため、荷主は対応可能な事業者を選んで運送の依頼をしなければならないのだ。

精密機器(機械)の運送を請け負う事業者は預かる荷物のことに精通しており、問題が起きないように必要な対策を行っている。なかでも、振動衝撃や湿度の対策には細心の注意を払うという。前者については、積層ポリマーやゴムなどの振動吸収材を使用するほか、適切な車輌を使用して機器をしっかり固定し、振動源を特定してそれを制御するなどといった対策を行う。後者では、空調システムや防湿材を使用し、湿度を40%~50%に保って機器を錆や乾燥による損傷を防ぐのだそうだ。

運送用の車輌にはエアサスを装備したトラックなどを使用し、機器(機械)の固定などに必要な装備を搭載するため、標準的なトラックよりもコストがかかる。輸送ごとに掛ける保険も、賠償範囲の0.2%と高額だ。しかし、精密機器(機械)の輸送は必要不可欠な仕事。ドライバーは細心の注意を払い、神経をすり減らしながら業務に従事しているのだ。もし、「精密機器輸送中」のステッカーを貼ったトラックを見かけたら、優しく見守ってあげたいものである。

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