
多くの倉庫が立ち並ぶ港湾エリア。そこには日夜、数えきれないほどのトラックが出入りし、日本の物流を支えている。場所によっては公園やキャンプ施設などもあり、誰でも立ち入ることができる埠頭も数多くある。そんななかで、限られた関係者しか立ち入ることができない人工島がある。しかも入島のルートは海底トンネルのみという非常に特殊な場所となっているのが神奈川県にある「扇島」だ。
扇島は、川崎市と横浜市にまたがって作られた人工島で、その面積は約550万平方メートルだ。この扇島は1969年に扇島計画がスタートし、5年後の1974年には埋め立てが完了。その後1976年には島内の製鉄所が稼働を開始している。この扇島は川崎工業地帯内に散らばっていた日本鋼管(現JFE)京浜製造所の工場を一か所にまとめて生産性の向上や公害対策を図る目的があった。

そうして出来上がった人工島の扇島だが、全域が私有地であることから関係者以外が入ることができない。いや入島のルートが海底トンネルしかないのだから、入るというよりも近づくことができないのだ。
唯一、一般人が扇島に入れる場所があるとすれば、それは首都高湾岸線を車で走っているときだろう。地図を見るとわかるのだが首都高速湾岸線が島内を通っている場所がある。とはいえ、そこに出入口はなく通過するだけだ。また国道357号が近くまで伸びているが、扇島手前で折り返している。
では、具体的に関係者がどうやって扇島へアクセスしているかといえば、JFE所有の構内道路が唯一のルートとなる。これが先ほどから話で出てくる海底トンネルだ。そしてこの海底トンネルは公道ではなく、一企業の“私道”という位置づけであることでJFEグループ関係者のほか、同社が許可した企業関係者のみが通行できるという特殊なエリアを作り上げているというわけだ。

扇島全体が私有地だから勝手に入ることができないということ以外でも、入島できない理由がある。それは扇島自体が、SOLAS条約(海上における人命の安全のための国際条約)に基づいて、一般人の立ち入りを厳格に禁止する場所となっているからだ(※SOLAS条約は、多くの犠牲者を出したタイタニック号の海難事故を契機に1914年に締結された国際条約のこと)。
ちょっと謎めいた存在として知られる扇島だが、川崎市は2028年度からの一部土地利用転換開始に向けた“最低限のアクセス”として、国道357号の東扇島~扇島内や、首都高湾岸線の扇島内の出入口を整備する案が浮上しているが、現段階では具体的な進展はないようだ。
それでも扇島を少しでも見たいと言うならば、扇島の隣に位置する東扇島にある東扇島西公園を訪れるといい。そこから海越しではあるが扇島に立ち並ぶ工場群を眺めることができる。

