
2025年2月、埼玉県上尾市にあるUDエクスペリエンスセンターで、現役自衛官を対象とした「大型トラック運転体験会&業界・企業説明会」が開催された。主催したのは国土交通省・関東運輸局埼玉運輸支局と、一般社団法人埼玉県トラック協会で、UDトラックスが会場や運転用トラックの提供などで協力している。
この催しの背景には「2024年問題」に端を発する深刻なトラックドライバー不足があるのだ。物流の現場では、荷物を滞らせることなくドライバーの待遇を改善しようと努力をしているものの、絶対的な人手不足はいかんともしがたい状況にまで追い込まれている。そこで様々な採用手法を試すなかで、即戦力が期待できる退職自衛官の獲得に目を向けようと考えたのである。
自衛官の退職者は定年を含んで年間約6000人程度おり、定年は階級によって違うが一佐(幹部自衛官、旧軍では大佐に相当)で58歳と比較的若い。また、士(一士・二士・士長、兵士に相当)は2年あるいは3年の任期制自衛官(更新あり)なので、さらに退職年齢が低いのである。任期制自衛官は、自衛官を経験してから次のキャリア(就職or進学)を目指すという、他の事業ではあまり例のないシステムだ。

自衛官は任務の必要性から大型車輌の運転経験や危険物の扱いに長けているなど、運輸事業者として必要なスキルを身に着けていることが多い。さらに、厳しい組織で鍛えられているから規律正しく、責任感が強いという側面がある。まさに、トラックドライバーにうってつけの人材というわけだ。
ところが、自衛隊は専門性の高い任務を持つ仕事であり、その特殊性や内部機密が多いことなどから民間事業者と交流する機会が少ない。ゆえに、退職者に対する再就職先の斡旋には苦労しているのが実情なのだそうだ。こういった背景の下、国土交通省がトラック協会と協力し、双方のニーズを汲んでマッチングを行なおうと考えたわけである。

この催しはすでに九州などでも実績があり、その評判は上々であったという。今回は任期制自衛官の参加はなかったものの、定年退職予定などの自衛官が18名参加した。最初に行政や物流業界の取り組みの説明を受けた後、参加者はグループに分かれてUDトラックスの大型トラック「クオン」に乗車。定められたコースで実際にハンドルを握り、体験走行を行なった。

走行後に参加者は、埼玉県トラック協会に属する運輸事業者6社がそれぞれ設けたブースを回り、各事業者から事業内容・待遇などの説明を受けた。また、自衛官は運輸業界の実状やそれぞれの事業者の特徴などについて、積極的に質問を行なっていた。印象的なのは、自衛官が各ブースを訪れたときに、直立不動で礼をしてから席についていたことだ。こういったまじめさを、事業者は魅力に感じているのだろう。

実際に最新の大型トラックを運転した感想として述べられたのは、扱いやすさや乗り心地の良さである。自衛隊のトラックは軍用車であり、効率性や実用性をとことん追求したタイプが多いという。安全性や荷物を大切に運ぶことに重点を置いて設計されたトラックとは、感覚的な違いがあったのではないだろうか。この催しを通じ、退官後に歩む第2の人生のステージとしてトラックドライバーという職業は、彼らにとってきっと魅力的なものに映ったことだろう。