大型トラックのエンジンは排気量が大きいのに、なぜ速いというイメージがないの?

2024年4月、高速道路における大型トラックの最高速度が90㎞/hに引き上げられた。それ以前は80㎞/h制限されていたから、10㎞/h緩和されたということだ。とはいえ、乗用車のドライバーからすれば、トラックが左車線をゆっくり走っているという感覚に大きな変化はない。

バブル経済期以前は深夜の高速道路をトレーラーヘッドが爆走し、ハイソカー(トヨタマークⅡなど2000㏄クラスの高級乗用車)を追い抜いていくなどといった光景が散見されるなど、トラックはけっこう高速で走行するといったイメージが持たれていた。考えてみれば、乗用車に比べて大型トラックのエンジンは排気量が非常に大きい。かつてアメリカでは「速く走りたければボアアップしろ」などといわれていたとされ、高速走行と排気量は正比例するといった考え方が一般的であったぐらいだ。ゆえに、ディーゼルとはいえ排気量が大きいのであれば、速く走れたとしても何ら不思議はないのである。

乗用車、とくにスポーツカーを好む人たちは馬力を気にする傾向が強く、それが速度に直結すると考えているようだ。それに対して、トラックで重要視されているのはトルクである。たとえば、大型トラックのエンジントルクは、12.8ℓエンジン(スーパーグレートの6R30型)であれば2100Nmという大きな力を発生させる。高級スポーツカーの日産GT-Rでも最大トルクは637Nmだから、これだけのトルクがあれば相当の速さが期待できるのではないだろうか。

しかし、実際はそういうものではない。そもそもトラックは速さが「命」という車輌ではなく、重い荷物を運ぶことを目的としている。すなわち、いかにスムーズに発進できるかということや、急な坂でも登っていけるかというところが重要なのだ。ゆえに、加速性能を高める技術が優先される。車輌形状もより多くの荷物を積むことを考えて、大きな箱型になっているから空気抵抗も少なくない。流線型のデザインを持つスポーツカーとは違って、高速走行には向いていないのである。

そもそも、車輌を速く走らせるためにはエンジン回転数やギヤ比なども重要で、トルクだけでスピードが生み出せるわけではないのだ。最近のディーゼルエンジンには、ターボチャージャーを装着しているものも多く見られるが、これもスポーツカーに多く採用されていたことから、速く走るためのパーツと思われがちである。しかし、これは環境負荷を考えて排気量を小さくしても、必要なパワーを生み出すために装着されているのであって、スピードを上げるためにあるわけではない。

また、大きなトルクを生み出すためにはロングストロークでなくてはならず、ピストン・コンロッド・クランクシャフトなどは、乗用車に比して相当の重量があるから、ディーゼルエンジンは元来高回転化が難しい。ギヤ比を調整するトランスミッションは12段や16段などがあるものの、最高回転数が低いと必ずしもスピードアップにつながるものではないのだ。

もっとも、実用から離れればトラックが276㎞/hを出した記録もある。2016年にボルボのトラクタFHの改造車が出したもので、13ℓのエンジンを2400ps・6000Nmまでチューニングしたことによる。また、3基のジェットエンジンを装着し、605㎞/hを出したトラックの例も存在するという。もちろん、これらが安全・確実に荷物を運搬できようはずはない。やはり、トラックは本来の働きができてこそ存在価値が高まる車輌。不必要なスピードを出す必要はまったくないのである。

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