
若干迷走しているとはいえ、欧州のEV推しは基本的に変わっていないようだ。実際に、乗用車市場のEV率はすでに14.6%に達している。これに対して我が国では、2023年の乗用車販売台数に対するEV割合はたったの2.3%。この背景はいろいろ言われているが、EV普及にはまだ課題が多くあるということだろう。どれぐらい先のことになるか見当もつかないが、現在の技術から推定すれば確かに究極の動力源は電気だといってよい。高効率で安全・安心・低価格な、太陽光発電と大容量蓄電装置が開発されれば、ガス・水素・石油などの出番がなくなる可能性も否定できないのだ。
発電過程などにおいて様々な意見や考え方はあるものの、EVが概ねエコで環境負荷が低いということは的外れな見解とはいえない。しかし、普及のネックになっているのは、現在の自動車に求められるコスト・インフラ・性能に十分対応していないことだ。とはいえ、車輌の用途や使用環境などが限定されれば実用化は十分に可能である。大手事業者が使用するラストワンマイルの小型トラックなどは、その典型的な例といえよう。
同様に、公共用車輌もEV化の動きがある。そのようななかで、注目されているのが消防車だ。この車輌は梯子を伸ばしたり、水を吸い上げ放出したりといった特殊な用途を持つが、
・消防署という拠点がある。
→充電設備を設けられる。
・活動範囲が限られる。
→例外出動を除いて自治体区域内で活動する
・特殊装備は電動が可能。
→同一動力で稼働できる、
・公共機関である。
→予算がつけば民間より先んじて導入可能。
といった環境にあるから、比較的導入がしやすいのだ。
実際に、欧州ではEV消防車が実用化されている。その代表格は、オーストリアに拠点を置くローゼンバウアー社のRT。出力180kwモーター2基と、132kw/hのバッテリーを搭載した全輪駆動車で、そのパワートレインはボルボ社製だ。緊急車輌だけに万一に備えたレンジエクステンダー(航続距離延長を目的とした小型発電機)として、ディーゼルエンジンも搭載している。
詳しい人から見れば、大型車輌の割にバッテリー容量が小さいと感じるかもしれないが、これは車輌重量を抑制するための工夫。おかげで、水4000ℓと消火液400ℓ積むことができるのだ。2023年に東京・ビッグサイトで開催された「東京国際消防防災展」では、輸入元の帝国繊維が展示を行い、来場者の注目を集めたという。


国内メーカーも負けてはいない。消防車架装大手のモリタは、同展示会で「MoEVius concept(メビウスコンセプト)」を展示。この車輌は、eキャンターをベースにした次世代型の消防ポンプ車だ。もちろん、コンセプトモデルなのでそのまま市販車として市場に出ることはないだろう。しかし、近い将来に防災現場で、EV消防車が活躍することは間違いないと思わせるのに、十分な仕上がりであったといわれている。
同じ消防車輌でも、救急車はすでに国内導入の実績を持つ。それは、日産自動車のNV400をベースとしたもので、2021年から東京の池袋消防署に配備されているのだそうだ。この車輌は量産型ではなく、オーダーメイドのような形で生産されたという。ゆえに、価格はヘタな高級車を超える1台約8000万円にもなるのだとか。いくら自治体でも、この価格だと全国に普及させるのはなかなか難しいと思われるが、これをベースに量産型が開発されれば、救急車のEV化が進むのではないかと期待されている。

