車輌の「顔」といえば、一般的にフロント部分を指している。この部分のデザインは結構重要な要素で、ユーザーの車輌選択に強く影響することが多い。そのなかでも強いインパクトを与えているのがヘッドライトで、これは「目」と表現される。とくに、トラックは積載効率などから「顔」が切妻型になるので、全体のデザインは乗用車に比べて制限ができる。ゆえに、「目」にあたるヘッドライトの印象が、「顔」のデザイン性に大きな影響を及ぼしているといっても過言ではない。
また、夜間走行でライトを点灯している際にはその光にも特徴が出る。特にトラックは、車側灯・車高灯などといったランプが多数搭載されていることもあり、トラックドライバーにとってその光は、イルミネーションのような自己表現に繋がっている。今では当たり前に普及したウィンカーのシーケンシャルタイプも、トラックの市販品として売り出されたことがきっかけになったといわれているぐらいだ。
トラックが量産され始めた高度成長期のヘッドライトは、電球タイプとシールドビームが存在した。電球タイプはヘッドライトのレンズ・反射板と光源である白熱球が分離したもので、構造的にはのちに登場するハロゲンタイプと同様であった。シールドビームはレンズ・反射板・発光体が一体化したもので、大きな電球といった感じのライトである。メンテナンス性に優れているだけでなく、電球に比べて明るさを持っていたことが普及した要因であったと考えられる。この頃のヘッドライトは、角目2灯・丸目2灯・角目1灯・丸目1灯の4種類でほぼ同一規格であったから、車輌ごとに大きな特徴があるといった状況ではなかったといえよう。
「目」が大きく進化したのは、先に触れたハロゲンランプの登場である。レンズの大きさや種類は、基本的に電球やシールドビームと変化はなかったものの、色や明るさが豊富になったのだ。カラーは黄色・白色・黄白色の3色、明るさはシールドビームより明るいものが多く、視認性が格段に向上した。同時に補助ライト(フォグランプなど)にも注目が集まり、ランプの明るさや配色をトータルコーディネートする風潮が生まれたのだ。
次に登場したのが、ディスチャージランプ(HIDランプ)である。このランプがこれまでのものと大きく違うのは、レンズの大きさである。小さな凸レンズであるにもかかわらず、明るさがハロゲンタイプに勝るとも劣らない。しかも、消費電力も小さい。スポーツカーやトラックの純正に採用され、瞬く間に普及したのである。ただ、このランプは光らせるために特殊なユニットが必要で、汎用性に欠ける部分がある。「顔」のデザインを多様化するには貢献したが、オリジナル性の表現には向いていなかったのだ。
そして、現在主流となりつつあるのがLEDである。長く、光量・熱処理・コストといった問題でヘッドライトへの採用が進まなかったが、これらが解決したことで一挙に普及に向けた道が開かれた。LEDは小さな光源が集まっていることから、レンズに頼らず多彩な照射範囲を臨機応変にカバーすることができる。これにより、トラックの「目」は薄く小さくなり、「顔」のデザインにもますます幅が生まれたのだ。今後、どのように進化していくのかが楽しみである。