大型トラックには、スピードリミッターがついている(一般に、車両総重量8t以上、または最大積載量5トン以上のトラックが対象)。すなわち、設定された以上の速度は出せないようにしてあるということだ。
この装置が義務化されたのは2003年なので、すでに20年以上の年月が経過している。標識による速度指定のない高速道路では、同車両の最高速度が80㎞/hに制限されている(法定最高速度)ので、スピードリミッターの設定は90㎞/hと定められた。
ここで注意が必要なのは、法定最高速度80㎞/hがスピードリミッターの義務化によって定められたのではなく、それ以前からある規則だということだ。
従来から、大型トラックなどの高速道路における法定最高速度は80㎞/hであったのに、それが守られず大きな事故が多発したことが背景となり、スピードリミッターは設置が義務化されたのだ。結果、大型トラックの走行速度が抑制されるようになったことで、トラックなどによる大事故減少の一因になったとされている。
これについて国土交通省は2007年に、スピードリミッター装着の効果に関する考察を発表した。前述の通り、大型トラックに起因する交通死亡事故は減少し、2005年の件数は1997年~2002年の平均より約40%も下がったのである。
さらに、燃費向上やCO2排出量削減も期待できるとされた。一方、デメリットとして心配されていた平均車速の低下による渋滞の増加や、高速道路の走りやすさに与える悪影響については、ほとんど問題がなかったという。
ところが、2024年問題によってトラックドライバーが不足し、物流が滞る懸念が発生した。その対策の一環として、大型トラックなどの法定最高速度が、2024年4月から90㎞/hに引き上げられたのである。
当たり前のことだが、早く走ればそれだけ目的地には早く着く。すなわち、法定最高速度の引き上げはトラックドライバーの勤務時間軽減につながると考えられたわけだ。
近年、大型トラックなどの安全装置に関する技術は著しく進化しており、万一の際にもそれらが作動することで、大きな事故をある程度は防げるようになった。加えて、従来からスピードリミッターは90㎞/hに設定されているため、新たに装着しなおす必要がない。
また、乗用車は新東名高速道路などでは一部の区域で、120㎞/hや110㎞/hが出せるようになっている。大型トラックを取り巻く環境が、2003年当時と大きく変化したことも、施策の実施に少なからず影響を与えたといえよう。
ただ、問題となるのは実効性である。現場からは、これを疑問視する声が少なくない。物流業界からは、「早く到着しても荷待ち問題が解決されなければ何も変わらない」との指摘がある。それに、本来80㎞/hに制限したのは安全性を考慮したものであるから、物流停滞問題とバーターで考えてもよいのかという疑問も残る。
そもそも2024年問題は、大型トラックなどの法定最高速度を引き上げた程度で、改善が見込めるものなのであろうか。万一この施策に問題が発生すれば、一番に割を食うのは現場のトラックドライバーだ。付け焼き刃的な対策ではなく、もう少し現場の実状を汲んだ抜本的な問題解決法を、国には検討してもらいたいものである。