水素社会はいつ頃実現するものか、本気で考えてみた

水素をエネルギーにする、と聞いてもピンとこない人が大半だ。それほど水素利用には、まだ市民の関心度は高くない。それは水素が目に見えないモノで、現在ほとんど使われていないから実感がないため興味が湧かないのだろう。

筆者は昨年、スーパー耐久選手権という全日本クラスの耐久レースの大半(岡山と大分だけは遠いので断念)を取材して、水素エンジン車をはじめとした次世代燃料車の走りっぷりを見届けてきた。

そこには水素のほか、合成燃料であるCNF(カーボンニュートラル燃料=ガソリンの代替燃料)、バイオ燃料(食廃油や微細藻類の油分から作った燃料=ディーゼル軽油の代替燃料)で走るツーリングカーが参加し、実戦の、しかも耐久レースによってこうした次世代燃料を使ったエンジンが鍛え上げられているのだ。

レースに参加するだけでなく、イベントスペースには燃料電池スタックを搭載したトラックや液化水素の運搬トレーラーなど巨大な水素利用を実現するための車両たちも展示され、またブースでは様々な方法で水素を利用する実演を行なっていた。こうすることで水素利用を身近に感じてもらえるよう活動しているのだ。

「EVも十分普及していないのだから、水素社会なんてまだまだ遠い未来のこと」と考えている人も相当に多いはずだ。しかし都内では燃料電池のバスが走り回っており、乗用車のトヨタMIRAIよりも遭遇する機会は多くなっている。

これが全国規模で広がれば、一気に水素社会の到来を感じられるようになるだろう。だが、実際には水素を生成して供給するのも現時点では採算が取れていない事業であるから、補助金や企業の先行投資頼りである状態だ。

メタネーションという工程を経て水素からメタンガスへと変換することができる。こうすることで水素より使い勝手が良くなることがメタネーションのメリットだ。現在使われている都市ガスと同じように扱えるから、パイプラインも使えるし、CNG車の燃料としても使える。

このようにメタネーションは一見、効率的であるのだが、実は本末転倒とも言えるアプローチだ。なぜならせっかく生成した水素を炭素と結び付けて使うのだ。つまり燃焼時にはCO2が排出されることになる。

発電所や工場の排出ガスからCO2を回収して、それを利用することによりCO2は大気中には増えない、という考え方もあるが、メタンガスとして燃焼すればやはりCO2は排出されるので、これまでと比べて排出量は半分になる、と考えるべきだろう。

中国では上海で水素を使った燃料電池を搭載した電動アシスト自転車が、すでにシェアサイクルとして利用されている。水素吸蔵合金を使った安全な水素ボンベを利用し、1回の水素充填で60km近くも走れるそうだ。

水素ボンベへの充填も自宅で簡単に行える。家庭用の電源と純水(精製水)があれば、電気分解してボンベに水素を充填する

シェアサイクルからでも水素が利用できるようになれば、水素利用は一気に普及する。トラックは定期便など決まったルートを走る車両を対象にすれば、水素ステーションをいくつも作らなくてもFCトラックの利用ができる。

すでにFCトラックの実証実験は始まっており、そのまま本格稼働する可能性も少なくない。水素利用はバスやフォークリフトなどでは始まっているが、トラックももうすぐ。

5年後には水素を利用する乗り物は驚くほど増えているかもしれない。

ページトップに戻る