水素を燃料とする自動車には、大別してふたつの方式が取り入れられている。ひとつは、水素をガソリンやディーゼルと同様に直接燃やす内燃機関方式だ。もうひとつは水素を化学反応させて電気を作り、それをエネルギーとしてモーターで駆動する燃料電池(FC)方式である。現在実用化されている車輌としては、後者が多いといわれている。いずれにせよ、地球温暖化に端を発するカーボンニュートラルの実現には、こういった新たな技術が必要不可欠なのだ。
すでに、一部地域の路線バスでは燃料電池車が採用されていて実用化段階に入っている。代表的な車輌といえば、2018年に登場したトヨタの「SORA」だろう。同社では1999年からFCバスの開発を開始しており、それから5代目にあたる同車輌が満を持して登場した。路線バスはルートが決まっていることに加えて、営業所が多数あるので水素の供給拠点を設置しやすいという利点がある。さらに、公共交通機関という位置づけから、様々な補助や援助も受けやすいといえるだろう。
では、トラックについてはどうであろうか。まず、トラックは純粋な商用車なので、トータルコストが下がらなければ、積極的な導入が難しい。しかし、定期便であれば走行ルートが決まっているので、それに合わせて水素供給拠点を設置すれば、スムーズに運航をすることができる。たとえば、高速道路を使用する定期便であれば、一定の距離でインターチェンジ付近に水素供給拠点を置けば、長距離を走る場合でも対応が可能になってくるということだ。
EVの場合、よく問題にされるのが電気の充填速度で、急速充電でも40分程度はかかるとされる。これに対して、ガソリン・ディーゼル燃料の場合は注入量にもよるが、5分~20分程度で給油できるのだ。水素の場合はタンクが複数になるが、充填速度は早ければ3分程度なので、トータルでもガソリンやディーゼルと遜色がない。
水素供給拠点である水素ステーションの設置は、水素自動車を普及させる上で大きな課題といえるが、さらに問題なのは水素の製造・運搬をどうするかということだ。水素は水を電気分解して製造すると思われがちだが、石炭や天然ガスから製造する方法があって、現在は天然ガス由来のものがほとんどなのだ。今後、コストなどを睨みながら製造法やプラントの設置場所を検討しなければならないといえる。
水素は気体のときには密度が低いので、高圧タンクが必要になる。ゆえに、効率よく運搬するためには、高圧に耐え得る特殊なタンクローリーを用意しなければならない。車輌搭載用のタンクも同様だが、現在は炭素繊維複合材をベースに、内張りにはアルミ合金ライニングを使用したものが主流である。
車輌は高圧ガスを搭載することから「高圧ガス保安法」の適用を受けるため、タンクの定期的なメンテナンスや交換が必要になってくるのだが、このコストが非常に高額になるという。自家用乗用車であればこれはネックになるのだが、トラックのような事業用車輌は、メンテナンスを含めたコストを計画的に償却することも考えられる。あるいは、メンテナンスを含めてリースにするといった考え方も、出てくるかもしれない。
これまで述べてきたように、水素自動車が軌道に乗るには多くの課題が山積している状態が、事業用車で定期ルート走行するトラックであれば、決して普及の可能性が低いわけではない。また、トヨタ自動車・日野自動車・いすゞ自動車は、FCだけではなく水素内燃機関トラックの開発に力を入れており、車輌の使用環境に合わせて選択肢を増やす努力をしているそうだ。昨今の地球温暖化による影響を考えれば、カーボンニュートラルは待ったなしの状況である。未来がかかっている水素トラックの動向からは、目が離せなさそうだ。